会報『日本と中国』

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友好訪問詳細

友好訪問「メディアの報道は少し大げさ 友情は人と人との間にいつもある」

2014年1月1日号
料理人 四川飯店代表取締役社長 陳建一(ちん けんいち)さん
春から大阪の大学院で学ぶ
厳俊(げん しゅん)さん

1987年生まれ、上海出身。約2年前に来日し、アルバイトの傍ら日本語学校に通い、今年4月から大阪市立大学大学院博士課程で経済を学ぶ。昨年10月には、大阪観光局から「大阪観光特使」にも任命された。好きな食べ物は刺し身

子どもを救って「紅綬褒章」を受章した

 2013年9月16日、大阪の淀川で子どもが溺れていたところにスーパーマンが現れた。それは26歳の中国人留学生だ。河川敷をジョギング中、子どもを発見し、「何も考えず」勇敢に川に飛び込んだ。当時の淀川は台風の影響で増水し、流れも速かった。

 苦戦しながらも子どもを救出。命懸けの一連の行動に対し、「やるべきことをやっただけです」「救出できたのは運が良かったからで、周りのみんなが協力してくれたおかげです」と謙虚に語る姿は、メディアを通じてあっという間に広まり、一躍有名人になった。

 アルバイト先の大手コンビニでは表彰され、11月には「自己の危難を顧みず人命救助に尽くした」として、紅綬褒章を受章。天皇陛下に謁見(えっけん)し、安倍晋三首相から感謝状を手渡された。同時期の褒章受章は唯一の外国人で、かつ最年少。「式典はとても緊張しました」と、スーパーマンも普段は一留学生。人間らしさがにじみ出ていた。

普段はストイックで素朴な青年

 上海で生まれ育ち、大学を卒業するまで過ごした。

 日本留学のきっかけは、留学生によく見られる「アニメ」や「ゲーム」ではなく、日本の技術力に強い関心を持ったからで、「勉強のための読書も好きです」と、文武両道だ。

 中国の大学では、日本語は少し勉強した程度。話す日本語はまだ流暢とはいえないが、人柄の良さは十分に伝わってきた。日本語は「特に聞き取りが苦手です。大阪弁も難しい」と話す。

 一人っ子だが、中国のいわゆる「小皇帝(家族に甘やかされたわがままな子)」ではなく、両親の教育は厳しかったという。「本当に必要なものだけしか買ってくれなかった」。両親から“倹約の精神”を学んだようだ。無駄遣いせず、住まいはルームシェアをするなど、生活はストイック。コンビニのほかにも力仕事やホテル清掃など多くのアルバイトを経験した。「日本人は親切で、いろいろと丁寧に教えてくれます」と日本人の印象を語る。

 一方、体力作りに余念が無く、毎日ジョギングを欠かさず行う。基礎体力に加え、水難事故発生の少し前に水泳の練習を始めていたことも、子どもの救出につながった。

 とにかく、体を動かすことが大好きで、自転車で大阪から淡路島まで行ったことがあるほど。武術家を連想させる短い髪型は「気合いを入れている」わけではなく、「これが一番しっくりくる」からだという。

 趣味はスポーツ一辺倒かと思いきや、「友達とカラオケに行ったり、お酒を飲みに行ったりもします」と言い、日本語の曲『涙(なだ)そうそう』や『愛は勝つ』などを歌う。

 日本の大学生とも交流し、柔道部の練習に参加したこともある。さんざん投げられた後、一緒に食事をして親睦を深めたという。

将来については未定まずは勉強を頑張る

 天皇陛下や首相に謁見し、街や勤務先で「あ、厳さんだ!」「ありがとう」などと声を掛けられるようになり、環境は大きく変わった。でも、自分の生活スタイルは曲げていない。今でも夜勤前に毎日ジョギングを続け、「走るのは遅いですが、大阪マラソンに出てみたい」と意気込む。

 「将来は社会の役に立てる仕事をしたい」と言うが、日本で働くか帰国するかは未定。「まずは大学院での勉強を頑張りたい。引っ越し先と新しいアルバイトも決めなきゃ」と、いろいろと思案中だ。

 日本と中国について聞くと、「メディアの報道は少し大げさだと思います。友情は人と人との間にいつもある。国籍は関係ない」と、冷え込む日中関係の改善に、勇気ある一人の青年が、素直で温かいヒントをくれた。
(田島恵輔)